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2015年9月28日 (月)

地方都市郊外 里山集落のいま

  地区の区長から頼まれ、初めて国勢調査員となりました。担当は、高崎市・観音山丘陵に位置する、里山に囲まれた60戸の集落。区長を務めていたときには、区の役や組長など、限られた人の自宅はたびたび訪れましたが、地区の全戸訪問は、今回が初めて。今回の訪問を通して、ここ高崎近郊の里山に暮らす人びとの生活の一片を、少し垣間見た感じがします。

   既にご存知のとおり、今回の国勢調査から、パソコンやスマホを使ったインターネット回答が可能となりました。そこで、調査員の最初の仕事として、インターネット回答の案内と推進のため、地区の家庭全戸に「インターネット回答の利用案内」のリーフレットを、手渡し配布しました。その結果、約2週間後に、インターネット利用者戸数が38戸であったことを知りました。63%の利用率です。このうち、独り住まいの高齢者が、近くに住む子供や孫に手伝ってもらってネット回答をした例が4戸ありました。高齢化率(65歳以上の比率)が35%程度の里山地区としては、ネット環境は思いのほか進んでいる、と思いました。

 高齢者住宅が多く、しかも戸別訪問をおもに土・日曜に行ったため、数軒を除きほとんどの家庭が、在宅中でした。その留守家庭も、農作業中の近所の人に聞くと、「○○ちゃんの家でお茶を飲んでいたよ」と教えてくれ、はたしてその家に行ってみると当人がまさに、お茶を飲んで世間話に花を咲かせている所でした。アパート、マンションの集合住宅が皆無だったのも、幸いしました。こうして、一回目の訪問は、一巡でほぼ全戸面談することができました。そして二巡目の調査票配布は、インターネットを利用しなかった22戸が対象で、そのほとんどが高齢者だったこともあり、調査票への回答方法を説明しながらの訪問となりました。

 山中にひっそりと建ち、庭には秋海棠の花が一面に咲き誇っていた、質素な平屋建ての住宅を訪ねました。ここに住むひとり暮らしの女性は、玄関先で訪問を告げる私の声に、やや警戒気味に家の中から「誰か?」と尋ねました。そこで大きな声で、私の名前と訪問の趣旨を話すと、玄関を開いてくれました。しかし、顔を合わせても怪訝な顔付きなので、30年前に引っ越してきて△△さんの向かいに住んでいる者だ、と自己紹介してはじめて、表情を緩めました。玄関を入った三和土(たたき)と上がり框(かまち)のある2畳ほどの板の間は、きれいに整理されてほとんど物はなく、ただ野の花が、地味な花器に活けられて、玄関の間全体を彩っていました。90歳になるという老女の、日々のつましくも質の高い暮らしぶりを窺わせ、いい気分となりました。目が悪いので代筆をしてくれと頼まれ、彼女の口頭による回答を調査票をうめました。

 やはり山中の林の中に、うもれるように建った一軒家を訪ねました。細い未舗装の坂道を、生え茂った雑草や雑木の枝葉が車の行先を遮るなか、その家の狭い駐車スペースにたどり着きました。家の前は、前日の雨のため泥濘(ぬかる)んでおり、その上に雑草にまみれてテレビや冷蔵庫などの廃家電や朽ちた家具や衣類などが、乱雑に放置されていました。ごめんくださいと来意を告げると、テレビの音が響く部屋に中から、一人の年老いた女性が「誰もいないよ」とつぶやきながら、出てきました。国勢調査について一通り説明しましたが、必ずしも意思は伝わらなかったようでした。地元の知人から、息子と二人で暮らしている、ということを聞いていたので、調査票の入った封筒を息子さんに渡してください、と頼んでその家を辞しました。この家の貧しい暮らしぶりに、気分は落ち込みました。

 このほか、インターネット操作が上手くいかない、という男性の家に上がりこんでネット回答を手伝ったり、夫婦とも病気のため字がよく読めないという家庭でも代筆をしたりして、わずか22戸の訪問でしたが、この日の巡回は4時間近くかかりました。

 集落の全戸訪問しながら、以前から気になっていた空き家についても、見て回りました。全部で10戸。このうち5戸は、ここ10年ほどの間に、空き家になりました。いずれも一人暮らしの高齢者が住んでいましたが、うち4戸が死亡、1戸が近くの町中への引っ越しによるものです。引っ越したひとりは、ときおり農作業のため戻ってきており、2戸は近親者が別荘として使っています。ひとりは、神奈川に住んでいて、1,2か月に1回程度、この地にやってきます。彼らは、普段は空き家となっている住宅の管理だけでなく、屋敷周りの畑地の雑草や山林の下草の刈り払い作業をしています。だから、これらの住宅はいまだ、現役の姿を維持しています。残りの2戸は、人の姿を見かける時はありません。このほか、何らかの事情で空き家となった住宅が2戸、廃墟と化した空き家も3戸ありました。現在60戸の集落で、他に空き家が10戸あるわけです。そして現在、80歳を超える一人暮らしや老夫婦だけの家庭が6戸あり、これらもやがて空き家となる可能性が高い。すると5戸に1戸が空き家、という時代がすぐ近くに迫っているということになります。

 以上が、国勢調査員として里山集落の全戸訪問をしたときの、いくつかの見聞です。

 

 

 

 

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