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2015年11月19日 (木)

原発政策の柱「核燃料サイクル」が破たん―11月の新聞記事から-

  今月の新聞紙上には、原発政策の柱となる「核燃料サイクル」についての重要記事が、相次いで掲載されました。東京新聞と朝日新聞のデジタル版から、記事の要旨を紹介し、若干の説明を加えて記録しておきたい。

➀ 原子力規制委員会は1113日、長期間停止中の高速増殖炉「もんじゅ」について、日本原子力研究開発機構に代わる運営組織を選定するか、選定できない場合、「もんじゅ」のあり方について廃炉を含めた抜本的見直しを実施するよう、文部科学大臣に勧告しました。日本原子力研究開発機構に代わる運営組織が見当たらないところから、「もんじゅ」の廃炉が現実味を帯びてきました。(朝日新聞デジタル版11/14

② 日本原燃は1116日、原子力規制委員会の審査の長期化を理由に、使用済み核燃料の再処理工場とプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料加工工場の完成時期の延期を、青森県庁に報告しました。いずれも六ケ所村に建設中のもので、再処理工場は2016年3月から18年度上期(4~9月)に、MOX燃料加工工場は17年10月から19年度上期(同)にそれぞれ延期。延期は再処理工場が22回目、MOX燃料加工工場が5回目。「核燃サイクル阻止1万人訴訟原告団」の浅石紘爾代表は「22回も延期をすること自体が、再処理技術が未完成で、核燃サイクルが破綻(はたん)していることを証明している。電気料金によって負担を強いられている国民のためにも一日も早く核燃サイクルをやめるべきだ」と訴えました。(朝日デジ版11/17

これらの記事の内容と意味を理解するために、「核燃料サイクル」について説明します。 核燃料サイクルとは、原発の使用済み燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、これを燃料に加工して高速増殖炉で使い、その高速増殖炉から増産したプルトニウムを取り出して高速増殖炉で使う、というサイクルです。この高速増殖炉は、ウラン資源を極めて高効率に利用でき、さらにプルトニウムを増殖できることから「夢の原子炉」と呼ばれ、原子炉開発の究極目標とされてきました。                                                                 

また、核燃料サイクルには、高速増殖炉技術とは直接の関係のないプルサーマル計画も存在します。高速増殖炉サイクルが本命で、一般原発のサイクルはその立ち上げのための手段です。ゆくゆくは高速増殖炉サイクルだけで回ることを想定しています。

 70年代のオイルショック以降、日本の原発政策は「ベース電源の確保」と「核燃料サイクルの確立によるエネルギー自給率向上」を主要な柱としてきました。「もんじゅ」の廃炉とプルサーマルの実質的な無限延期は、わが国における原発政策の柱だった「核燃料サイクル」の破綻を意味します。破綻したのは核燃料サイクル政策のハード面だけではありません。巨額の国民負担や国際社会からの核拡散懸念が伝えられています。

③ 「もんじゅ」廃炉の可能性を受け、東京新聞は、核燃料サイクル事業にかかったコストを、あらためて調べました。その結果、いずれ必要になる廃炉費用も考慮し、少なくとも12兆円が費やされ、もんじゅが稼働していない現状でも、今後も毎年1600億円ずつ増えていくことが分かりました。実用化のめどのない事業に、巨額の国民負担が続く実態が浮かんだ、と東京新聞は伝えました。(東京新聞デジ版11/17                                                             

④ 来日中の米国の核政策専門家は、すでに国内に10.8トンのプルトニウムを保有している日本が、再処理工場稼働によって毎年最大8トン(長崎型原爆1千発分以上)を新たに生産していけば、「中国や韓国など近隣諸国が懸念を深め、東アジアの安全保障を悪化させる」と指摘、青森県六ケ所村日本原燃が建設中の使用済み核燃料再処理工場を稼働させないよう訴えました。(朝日デジ版11/7

日本のプルトニウム保有と核拡散に対する懸念と牽制は、米中両政府から先月、相次いで表明されました。

10月に来日したホルドレン米国大統領補佐官は、日本は、英仏に再処理を委託するなどして得たプルトニウムを昨年末時点で国内外に計47.8トン(長崎型原爆6千発分以上)保有していることを踏まえ、核テロ防止や核不拡散というオバマ政権の立場から、「プルトニウムの備蓄がこれ以上増えないことが望ましい」と述べました。(朝日デジ版10/12

⑥ 核軍縮を審議する国連委員会で20日、核保有国の中国が「日本はプルトニウムを大量保有し、それは1350発の核弾頭の製造に十分な量だ」「一部の政治勢力に核武装論がある」と日本を名指しして批判した。(朝日デジ版10/22

では何故、政府は、このように破綻が明らかな核燃料サイクル政策を、中止することができないのでしょうか? 使用済み核燃料の保管場所の手詰まり問題が、このことを証してくれます。

原発から出た使用済み核燃料は、原発敷地内のプールで一定期間の保管・冷却後、六ケ所村の再処理工場へ移送されます。再処理工場が稼働しておれば、使用済み核燃料は、消費されて減少していきます。しかし、再処理ができなければ、使用済み核燃料は核のゴミとなって、核燃料プールに貯蔵されつづけます。現在の使用済み核燃料の貯蔵量は、六ケ所村再処理工場2,945トン(容量3,000トン)各地の原発14,340トン(同20,640トン)合計17,285トン(同23,640トン)で、貯蔵容量の73%が埋まっています。もし原発が順次再稼働すれば、数年後には満杯となります。

 核燃料サイクル政策の破綻によって再処理ができなくなった場合、政府と電力会社は青森県との約束によって、六ケ所村に移送させた使用済み核燃料をすべて、青森県から持ち出さなければなりません。しかし、各原発の貯蔵容量も満杯近くで受け入れることはできず、結局、青森県から使用済み核燃料を持ち出す場所は、ありません。政府と電力会社はいま、原発再稼働を止めて使用済み核燃料をこれ以上増やさないか、あるいは破綻が明らかとなった核燃料サイクルの可能性に賭けて再稼働するか、の岐路にあるといえます。

 核のゴミ(使用済み核燃料含む)の最終処分地について日本では、候補地すら決まらず、「日本海溝に沈めろ」「モンゴルに持って行く」「宇宙に棄てればいい」など、無責任な暴論が吐かれています。そうしたなか、「オンカロ」というフィンランド南西部オルキルオト島に完成させる処分場のニュースが飛び込んできました。

 フィンランド政府は十二日、原発の使用済み核燃料を地下400メートル超の岩盤地層に埋める最終処分場の建設を世界で初めて許可しました。2020年代に運用を始める計画。ただ、放射線の影響がなくなるまで10万年かかるため、安全を保証できないとの批判があります。(東京デジ11/13

 3.11直後の2011年、ドキュメンタリー映画『100,000年後の安全』は、日本各地で緊急上映され、大きな反響を呼びました。「オンカロ」はこの映画を通して、日本でも周知のこととなりました。地震が多く地下水が豊富な日本では、「オンカロ」のような地層処分は不可能だとされています。原発再稼働によって、これ以上「核のゴミ」を増やことは最早、狂気の沙汰だといわざるを得ません。

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