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2016年12月 4日 (日)

朱色の世界に染まる―京都・紅葉狩りの終りの日―

 京都・紅葉狩りの3日目、最終日です。嵯峨野高校生物部の後輩たちとの52年ぶりの再会の日。この日に備え、風邪を引かないように気をつけていたのですが、先週の季節はずれの雪の日以来、なんとなく風邪気味で、この一週間、気の落ち着かない日々を過ごしました。Img_2269     (嵐山・保津川右岸から対岸を見る。遊覧船がのんびり、行き交っていた)

 宇治の姉の家から嵐山に行くには、今までなら京都駅や三条京阪からバスに乗り、四条大宮か白梅町で嵐電に乗り換え、それで嵐山まで行くのが常でした。しかしこの日は、四条河原町で阪急電車に乗り換え、阪急で桂まで行ってそこから嵐山に行く、といった初めてのコースを選びました。桂からの嵐山行きの阪急は、嵐山へ紅葉狩りに行く人びとで、満員でした。
 阪急・嵐山駅から渡月橋の脇を通って、保津川右岸を上流に向かいました。阪急の乗客のほとんどが渡月橋を渡り、私のコースをゆく人は、ほとんどいません。対岸の亀山公園の方を見ると、その背後に愛宕山がどっしりと構えており、思わず「わしの山や!」とつぶやきました。愛宕山は、私にとってもっとも懐かしい山であり、私を包み込んでくれる唯ひとつの山なのです。

Img_2194 13時の嵐電嵐山駅での集合まで、2時間ほどの時間があり、この間を使って保津川右岸の最奥部にある大悲閣を目指しました。「花の山 二町のぼれば 大悲閣」(芭蕉)。高校の古文の授業で、この俳句が教材として取り上げられ、「花」と「悲」がたったの2町を隔てて山の裾と頂にある、人の世の無常をさりげなく歌った俳句です、と先生が言いました。大悲閣への山道入口に、この句の石碑がありました。 Img_2201 山道を登っていくと、途中、モミジがオレンジ色に紅葉していました。Img_2208 山道沿いの斜面には、巨木となったモミジが豪快に紅葉し、はっと息を飲みました。Img_2263 大悲閣に到着。眺望は東側一面にひらけ、正面に比叡山が遠望でき、その手前に、双ヶ岡がひっそりとたたずんでいる。平安京は双ヶ岡の向こう側、そしてこちら側が嵯峨野。私は、15歳から23歳までの青春時代を、この双ヶ岡の手前にあった実家で暮らし、嵯峨野を自らのフィールドとして過ごしました。多感な時代の思い出の地です。Img_2214_2 保津川右岸は、左岸と比べて日照量少なく、モミジの紅葉も鮮やかさに欠け、一気に紅葉することなく淡緑色から黄緑色をへて淡い赤色となり、やがて落葉していきます。しかし、紅葉化のグラディエーションは、朱一色に染まったモミジと違った趣があって、これもまた心ひかれます。Img_2274 13時ちょうど、嵐電嵐山駅で嵯峨野高校生物部の後輩たちと、52年ぶりの再会を果たしました。一級下の女子3名と男子1名、二級下の男子1名と私の計6名。私たちとゆかりのある嵯峨野を散策しながら、旧交をあたためるという企画です。
 最初に向かったのは、二尊院。Img_2305 私はすっかり忘れていたのですが、二尊院で生物部新年会を開いたことがある、という。その模様を撮った写真を見せられ、思い出しました。テーブルの後ろ側に15人ほどの高校生が、笑顔をはち切らせて、カメラの方を向いてます。そこに私の姿を発見し、間違いなく私も参加していた、と確信しました。テーブルの上には、七輪のうえに陶器の鍋が乗っており、何か鍋料理をしたことを窺わせます。皆で買い物をした、と一人の女性が言いました。Img_2311_2 大覚寺に向かう途中、厭離庵を訪ねました。この厭離庵には以前、「世を厭うてこの庵に籠っているゆえ、立ち入りは厳にお断りする」と言った立て看板があり、その後、敬遠して寄り付かなかった記憶があります。しかし今回は、庭園の紅葉を見せてくれるとのこと。早速、庵の前庭に入り、紅葉したモミジを観賞しました。Img_2319_1 観賞した、と表現に値するだけの、りっぱなモミジの紅葉でした。樹木としての大きさ、枝張りの堂々とした広がり、そして朱とも緋ともいえる紅葉の様。すでに最盛期は過ぎたとはいえ、これは一級の紅葉だ、と思いました。Img_2324_2 大覚寺。私たちの部活動にとっては、とても縁の深い寺院です。大覚寺の広大な池泉回遊式庭園・大澤乃池をめぐります。この池は、私の最も好きな庭園であり、最も懐かしい池沼のひとつです。Img_2413 今から50数年前、嵯峨野にある多くの寺院は、松くい虫被害によってアカマツ全滅の危機にありました。ここ大覚寺も例外ではなく、方丈庭園にあった大木のアカマツが、次から次へと枯死しつづけていました。日本庭園におけるアカマツの枯死は、致命的でした。当時、嵯峨野高校生物部に属した高校生たちは、嵐山や大覚寺のアカマツの松くい虫被害に心を痛め、松くい虫を研究しょう、と思いつきました。Img_2404_1 研究といってもたかが高校生。何をどうやっていいのかわからない。そこで兎も角、松くい虫そのものをこの目で見よう、ということになりました。当時、ちょうど嵐山の亀山公園で、 枯死したアカマツの伐採作業が行われていました。そこで部員は、毎週土曜日の午後亀山公園へゆき、枯死したアカマツの皮を剥ぎ、そのなかかからアカマツを喰っている昆虫類をつまみ出し、その種類を同定しました。Img_2393 キクイムシ、ゾウムシ、カミキリムシなどが、樹皮を剥いだアカマツの幹から、ぞろぞろと出てきました。当時、高校生の私たちは、「こいつらがアカマツ枯死の犯人」だと、確信したものです。そして、昆虫の種類による食痕の相異や被害部位の特徴を見出し、その成果を模造紙に書いて、高校の文化祭で発表しました。Img_2379 文化祭発表にあたり、松くい虫被害により枯死したアカマツの標本が欲しい。そこで、被害樹を伐採していた大覚寺から、直径1.5メートルほどの輪切り丸太をいただき、学校までの約4㎞の道を、リアカーにひいて持ち帰りました。文化祭当日、私たちの研究発表と松くい虫被害木のデモ展示は、多くの参加者の耳目を集めました。Img_2388 林野庁のサイトによれば、松くい虫発生のメカニズムは、次のとおり。
 夏、カミキリ成虫がマツの若枝の樹皮を食べたとき、カミキリの体内にいた体長1㍉にも満たない線虫(ネマトーダ)がマツの樹体内に侵入し、そこで増殖してマツを衰弱させる。夏から秋にかけて衰弱したマツの樹体内でカミキリが産卵、孵化した幼虫は樹皮下で成長し蛹となって越冬する。初夏、羽化したカミキリは線虫を体内にいれ、マツの樹体から飛び立つ。高校生たちが観察した「松くい虫」は、カミキリは線虫媒介者、キクイムシやゾウムシは衰弱したマツへの後からの侵入者、ということです。Img_2406_2 大覚寺のほぼ真北に、直指庵という浄土宗の寺があります。ここも、私たちにとって懐かしい寺の一つです。Img_2449_1 当時、年老いた尼さんがひとり、この朽ちかけた尼寺を守っていました。高校2年生だった私は、しばしばこの尼寺を訪ね、庵主さんとの気楽な世間話に時間を忘れました。Img_2432 あるとき、直指庵に飛来する野鳥が話題になったとき、庵主さんが水鶏(くいな)の話をされました。「あさがたなぁ、まだ暗いうちに飛んで来やはって、クォンクォンクォンって鳴かはんにゃ」。やわらかい京言葉が、受験勉強でささくれ立っていた私の気持を、いたく慰めてくれました。Img_2422 3年生の夏休み前の集まりで、直指庵の水鶏(くいな)の話をすると、後輩の部員たちは是非、直指庵へ行きたい、水鶏の鳴き声を聞いてみたい、ということになりました。早速、庵主さんに相談したところ、深夜未明に真っ暗闇の尼寺に高校生が歩いてやってくるのは危険である。だから、直指庵に泊まり明け方の暗いうちに起きて、水鶏がくるのを待てばいい、とすすめられました。Img_2434 ある夏の夕方、嵯峨野高校生物部のメンバー約15人が、高校のある常盤から広沢の池を経由し、美しい竹林に囲まれた後宇多天皇陵を右手に見て、直指庵に向かいました。近くのため池では、ウシガエルが重低音の鳴き声をあげていました。
 同宿に興奮を隠さない高校生のはやる気持ちを何とか静め、静寂と暗闇のなか、早々に寝床につき朝を待ちました。そして早朝未明、数多の野鳥たちが飛来しはじめました。そのなかに、クォンクォンクォンクォンクォンクォンと歯切れよく鳴きつづける声が聞こえました。水鶏の鳴き声でした。Img_2445_1
 懐かしい嵯峨野をめぐりながら、6人が6様に思い出を語り、互いの欠けた記憶を補いながら、52年前の実像らしきものにアプローチするのでした。夜の宴席で、2年後輩のA君が言いました。高校時代は、進路や学業で悩み、毎日がつらく暗かった。だけど生物部の部室に行くと、いつも先輩や同級生がたむろしていて、楽しく救われた、と。もはや、殆ど朱色に染まってしまった私の全身は、後輩たちとのうれしい再会に、興奮を隠しきれませんでした。

















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