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2017年1月10日 (火)

夏目漱石著『明暗』と水村美苗著『続 明暗』を読む

 漱石没後100年(1916年12月9日没)の年末から生誕150年(1867年2月7日)の年初にかけ、漱石未完の絶筆『明暗』と、その未完の書が書き継がれた水村美苗著『続 明暗』を読みました。

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 以前に読んだ『明暗』は、主人公・津田の手前勝手さや卑俗な世渡りぶりに辟易し、くどい迄の心理描写にうるささをすら感じ、けっして好きな作品とは言えませんでした。しかも、漱石の死去により絶筆となったため、物語の顛末は中途半端で、読後はあまり印象に残らなかった。『明暗』が、漱石作品中の最高傑作だとか日本近代小説の最高峰と評されるが、私は、『虞美人草』や『三四郎』の方が、断然、好きでした。
 
しかし、今回『明暗』と『続 明暗』をひとつの作品として通しで読んでみて、20年前に読んだ時とはまったく違った読後感を味わいました。まず何よりもストーリーが面白くなった。見合い結婚した津田とお延の新婚夫婦に、様々な人間群像が絡まってきて、二人の関係をかく乱します。いまひとつしっくりとしない夫婦関係に影を落としているのは、津田を捨てて友人に嫁いでいったかつての恋人清子の存在。清子が何故、自分を捨てたのかの。津田の心に引っかかりつづける疑問と未練を刺激し、思い出させ、利用しょうとするものすら、登場します。妹のお秀は、兄夫婦への嫉妬心から、兄と義姉を責めます。津田の友人小林は、清子のことをねたに、金をせびります。そして、清子とお延を津田に紹介した津田の勤め先の社長夫人は、清子がひとり温泉場で療養していることを津田に伝え、津田が彼女のもとへ向かうように唆します。漱石の『明暗』では、津田が清子と温泉場で再会するところで絶筆となりました。温泉場でのふたりがどうなったのか、水村美苗氏の『続 明暗』が徐々に明らかにしていきます。
 水村氏は、漱石の『明暗』のなかの心理描写のなかに、その後を暗示することがらを丁寧に見出し、物語を紡いでいきます。だから、温泉場で津田と清子とお延の3人の間で起こった出来事は、自然ななりゆきとして、読者の胸に落ちてきます。水村氏の大文豪・夏目漱石への挑戦は、見事なまでに成功したと思います。もはや、『明暗』と『続 明暗』は、別々の作家による二つの作品ではなく、新『明暗』として新しい生命を得たといえます。漱石の節目の年の読書として、おすすめの漱石本です。

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