山の10頭より里の1頭を獲れ! イノシシ退治の要諦
隣家のSさんは先月、近くの竹林でタケノコ掘りをしているとき突然、目のまえに大きなイノシシが現われ、思わずドキッとした、と話しました。秋になると地区のあちこちで、イノシシによるサトイモやサツマイモの被害のことが、話題になります。被害は農作物だけではありません。Nさんの飼い犬は、夜間、庭に繋いであったところをイノシシに襲われ、激しく争ったうえ噛みつかれて重傷を負い、その後、亡くなりました。また、となりのバイク店の店長夫妻は数年前、夜、車での帰宅途中、近くの県道でシカに衝突され、車を壊されました。高崎駅から10㎞ほどの中山間地での鳥獣害被害は、このように広がっています。
木曜日の夜、高崎・観音山丘陵南麓に位置する岩平地区で、鳥獣害対策についての講習会があり、大勢の住民が会場の小学校体育館に集まりました。参加者は、ざっと数えて150人ほど、地区戸数の三分の一の参加で、秋の運動会よりも多く、住民の関心の高さをうかがわせました。講習会では、群馬県鳥獣被害対策支援センターの担当職員が講師となり、主としてイノシシの生態、被害拡大とその要因、農作物被害対策などが話されました。
まず講師は、群馬県内の鳥獣害による農作物被害の規模を年間6,7億円と紹介、また高崎市吉井町内でのイノシシの捕獲頭数は280頭で、うち岩平小校区内が210頭になると報告しました。イノシシ以外の捕獲は、アライグマ10頭、ハクビシン12頭、タヌキ12頭、アナグマ7頭とのこと(2016年実績)。シカやキツネは、捕獲された獣の中には、入っていません。岩平地区でのイノシシ捕獲頭数の多さに正直、驚きました。
イノシシは、植物中心の雑食性動物で、木の実やタケノコ、ミミズなどを常食とし、とりわけサツマイモ、サトイモ、ジャガイモなどの芋類が大好物だという。住民の多くが、夜間徘徊中のイノシシに出会っているのですが、本来は夜行性ではなく、ただ臆病で警戒心が強いため、人気のなくなった夜に出没する。視覚は弱く、臭覚が鋭い。
イノシシは鼻先の力は強く、70㎏の重さのものを動かす。田畑や農道、あるいは山道が掘りかえされた跡をよく見かけますが、この鼻先力70㎏重の威力の発揮です。また時速50㎞の速さで走り、約1mのジャンプ力がある。ただ、障害物に対しては、よほどの危険なとき以外は、跳び越えるよりももぐり抜けることの方が多い。
出産は2歳からで、毎年妊娠し平均4頭出産する。ただし、栄養がいいと7,8頭出産。人里に出現し農作物や残飯を食しているイノシシは、栄養豊富で豊満となり、繁殖率が高まって、非出没イノシシよりも増加する。ウリ坊の縞模様は約4ヶ月で消え、1歳の誕生日のころには20,30㎏の重さになり、成長して50~150㎏の体重になる。
イノシシ被害拡大の要因について、講師は3つの要因を挙げました。
①里山の変化:里山での人間の活動が低下し、耕作放棄地が増加したこと。
②捕獲圧の変化:狩猟者の減少および高齢化。
③気象の変化:温暖化、少雪化による生息域の拡大、幼獣死亡率の低下。
以上を受けて講師は、イノシシ被害についての3つの基本対策を提案しました。
①集落環境整備:加害獣を集落に引き寄せないよう集落環境を整えること。そのために、畑や果樹園での放任(取り残し)作物の除去や収穫残さと生ごみの放棄を止め、美味しいエサをなくす。また、住居や田畑の周辺にある耕作放棄地を整備して、獣の隠れ家をなくす。さらに、林野と田畑・住居のあいだに緩衝帯を設置して見通しを良くし、獣を田畑・住居に近づきにくくすること。
②侵入防止:侵入防止柵により、集落や田畑を守る。防止柵には、ワイヤーメッシュ柵や金網柵のほか、イノシシ用電気柵がある。イノシシ用電気柵の場合、地面から20㎝間隔での3段張りが有効。
③捕獲:個体数を減らす。しかし、捕獲だけでは被害は減らない。全滅は不可能であり、何よりも重要なのは、加害個体を除去すること。加害個体とは、好奇心が強く人間を屁とも思わない猛者のイノシシで、人間に限りなく近づいてくる。この加害個体の栄養状態を低くして繁殖率を下げることが極めて大切である。古来、里山の格言は言う。「山の10頭よりも里の1頭を獲れ!」。里の1頭こそ、加害個体だ。
こうした話をベースに、最後に講師は、①3つの対策はバランスよく、②自助・共助・公助の考え方で、③集落ぐるみで取り組みましょう、と講演を結びました。
講演のあと、司会者が参加者に向かって3つの質問をしました。①イノシシを目撃したことのある人? 参加者のほぼ全員が手を挙げました。②農作物の被害にあった人? 7割方の参加者が手を挙げました。③今年から米作りを止める方? 10人ほどが挙手。
参加者からの質疑では、イノシシ遭遇の体験談や防御柵設置の補助金のことや農作物被害での農業共済の補償額が少ないことや子供が襲われないようにとの注意喚起などの発言が活発にあり、2時間近くの会合は終わりました。
今朝、家まわりの里山や集落周りを散策し、イノシシ対策の現場をいくつか見たので、写真で報告します。 小学校裏の里山入り口には、イノシシ捕獲用の檻が設置されています。同様の檻は、地区に35基設置されています。小学校裏のこの檻には、去年の5月、母親とウリ坊11頭が掛かり、その数日後、ふたたび10頭が捕獲されました。計22頭を捕獲。 真竹を支柱にしたイノシシ防止網。住宅のすぐ近くの畑にも対策がなされています。この畑には、サトイモが植えられていました。 里山と梅林のあいだをトタン板で塞いでいます。山側には10数本のユズの木が植わっており、ここのユズがわが家のジャム原料となっています。そのユズは、ほとんどの農家が住宅の近くに植えており、今は収穫する人も少なく、ほとんどの実が木に残されたまま。講演では、イノシシはユズも食するといっていました。 水田まわりの電気柵。耕作される水田は、ほとんど電気柵が設置されています。未耕作の田畑は、放棄されたままです。 小学校裏の里山にある舞茸の菌床栽培現場。手前の一辺は網が張られ、他の三辺はトタンで囲まれている。この舞茸栽培は、地元有志の協力を得て、小学生たちが実施しているもの。
以上のように、高崎市郊外の中山間地帯の農村も、鳥獣害被害に苦悩しています。行政は「集落ぐるみの取り組み」を呼びかけますが、なかなか足並みがそろわない。私が区長をしていた2年は、集落環境整備のひとつとして住宅近くの真竹林を皆伐して緩衝帯を設置する活動を、高崎市の補助金を得て実施しました。11月から3月までの5カ月の間、毎月1回日曜日の午前の3時間、約15人の区民が参加して竹伐採作業をしました。しかし、区3役の負担が大き過ぎるという理由から、その後は中止となりました。残念なことです。そして今日も、イノシシたちが家族そろって、里山を徘徊しています。
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