歌人たちの詠んだ「福島の今」*** 2015~17年の朝日歌壇から ***
福島原発事故から6年半経ちました。福島の人びとは依然として、避難生活の苦悩と放射能の不安のなかにあり、汚染水問題はいまだ解決せず、農業や水産業も元に戻ることはありません。毎週月曜日の朝日新聞歌壇には、多くの歌人のみなさんが、福島や避難先からそして全国から、さまざまな「フクシマ」を詠んだ短歌を投稿しています。こうした声に耳を傾け、福島の今を記憶にとどめつづけたいと思います。
福島第一原発は今
*朽ちてなお放射続ける3号機ひしゃげた鉄骨鳴る線量計
(いわき市)池田 実
15/3/16
*五年目へ原子炉建屋に人寄れず高額ロボット溝に動けず
(鹿嶋市)栗崎耕三
15/7/12
*一日に三百トンの汚染水溜まりゆく日々果てしもあらず
(福島市)美原凍子15/7/27
*放射線のガードが固く覗けない溶け落ち込むデブリの姿
(郡山市)柴崎 茂
16/8/1
*「六五〇シーベルトのデブリ」とふ紙面静かにめくる雪の朝なり
(福島市)美原凍子 17/3/13
注:650シーベルトは40秒浴びれば死ぬ驚異的な値。溶け落ちた核燃料デブリ表面の線量は数万シーベルトあるという。廃炉の目的はデブリの回収。今年7月やっと、カメラ付き水中ロボットがデブリの姿をキャッチ、廃炉作業はこれから。汚染水対策は、凍土壁が完成しても、多くは期待できない。
廃炉作業と作業員
*痛みなき被ばく線量の積算に「大丈夫」と若い作業員笑う
(いわき市)池田 実15/4/13
*除染から廃炉作業に身を投じやがて福島がふるさとになる
(いわき市)池田 実15/5/11
*五年目の節目といわれるその日にも防護服着た人七千人がイチエフに居る
(福島市)加藤哲彰 16/3/28
*教え子の賀状に二行太字で「除染の現場でがんばっております」
(仙台市)土生博子 17/2/27
*馴染めない女将の訛り聞きながら廃炉作業の後の酒盛り
(安芸高田市)菊山正史 17/3/20
注:イチエフの廃炉作業には、全国各地から多数の原発労働者が集まってきている。熟練労働者は被ばく限度を超えてリタイアし、若年の未熟練労働者が増えている。最近では、外国人労働者も目立ち始めた。
除 染
*吹雪く暮れ飯舘村へ五〇〇〇人の除染労働者黙して入り行く
(福島市)澤正宏15/1/19
*最終はいずこにか中間貯蔵施設ちゅうかんという果てなき長さ
(福島市)美原凍子 15/2/16
*帰れない原発被災のふる里は見渡す限り除染土の山
(いわき市)金成榮策15/4/27
*百二歳の自死の哀しき飯舘にあまた除染土黒き山なす
(横須賀市)梅田悦子15/8/24
*蕗の薹は故里の畑に芽の出でず土の除染に根を奪はれて
(平塚市)三井せつ子
17/4/17
注:除染で出た汚染土などは、県内各地の仮置場1,100 か所、学校や住宅の庭先146,000か所(2016/9現在) に保管中。政府は、福島第一原発のある双葉町と大熊町に
中間貯蔵施設を設置する計画だが、確保できた用地は全体 の20%(2017/2現在)に留まる。
農畜産業・水産業
*好きなだけ掘れとスコップわたさるる出荷停止の解けぬ竹の子
(日立市)加藤 宙15/5/11
*保管せる放射能汚染の牧草を被爆の牛に食わす悲しみ
(南陽市)渋間悦子15/12/7
*突然に汚染基準が緩くなり底這ふ魚も市場に並ぶ
(いわき市)馬目弘平
16/9/19
*六年目原乳出荷許されし牛飼いの目の奥にある奥
(福島市)美原凍子
17/2/20
*「来世はこの地に生まれてくるなよ」と被曝牛舎に老婆の声が
(いわき市)鈴木愛子 17/3/20
注:農水産物の出荷制限が解かれ始めた。しかし、幼い子供たちに食べさせるのに、躊躇する。
帰 還
*黒々と積み上げられしフレコンバッグわれらの帰還をかたく拒みて
(国立市)半杭蛍子15/12/21
*帰れねぇいまさら解除といわれても口惜しいけれどもう帰れねぇ
(会津若松市)赤城昭子 16/4/4
*「帰り来よ」山里の風呼ぶ声のかわうち村に、かつらお村に
(福島市)美原凍子 16/7/11
*山林に自由は存(あ)れど家近き山除染せず帰還(かえ)るに難しと
(福島市)青木崇郎16/11/21
*さくらさくら待つふるさとへ帰る人、帰れない人、帰らない人
(福島市)美原凍子 17/4/24
注:2017年4月、フクイチのある大熊町・双葉町全域と他の帰還困難区域を除いた全地域で、避難指示が解除された。これに伴い、解除後1年で賠償が打ち切られる。また、3月31には、自主避難者への住宅の無償提供も打ち切られた。帰還が無理強いされている。
避難生活・故郷を想う
*かなしみの数だけともる仮設の灯ちさくこぼれて雪の降りつむ
(福島市)美原凍子15/1/19
*二十年住み慣れし家荒れ果てて原発避難五年の哀し
(国立市)半杭螢子
16/3/7
*ふる里のアスパラ近所に配りたり線量検査済みと言ひつつ
(横浜市)細野八重子 16/6/20
*わが父母の眠りし墓地の柵下は沼田場(ぬたば)となれり帰還困難区域
(名取市)志賀令明 16/9/5
*ふくしまは黄金の穂波揺れるころか赤とんぼ舞ふわが里を恋ふ
(国立市)半杭螢子 16/10/24
*独り身の仮設暮らしの年寄りを原発孤老と誰が呼びしか
(福島市)加藤哲章
17/3/20
*慎ましく暮らしおれども六年の借り上げ二間(ふたま)に足の踏み場なし
(いわき市)守岡和之 17/5/22
*避難地に移転六年閉校とふ母校のニュース訃報のごとし
(水戸市)紺野告天子 17/6/5
福島の風景・暮らし・こころ
*フクシマを忘れたように笑ってる逃れられずに笑うしかない
(福島市)伊藤 緑15/3/30
*ヒメジョオンセイヨウタンポポネコジャラシよく来てくれた除染の庭に
(福島市)米倉みなと15/6/8
*息潜めアクセルを踏む汚染域夥(おびただ)しきはフレコンバッグ
(いわき市)田上将夫 15/7/12
*「心配しね、帰村かなへば牛(べご)育でる」老農は笑ひ目頭に手を
(福島市)斉藤一郎 15/9/21
*除染地に自動車(くるま)・猫車(ねこ)など赤錆て光なくして現場に終る
(須賀川市)布川澄夫16/1/4
*ふる里の川の微かなセシウムの香を記憶して稚魚旅立つか
(郡山市)柴崎茂16/2/1
*とりどりの花の種袋手に老兄(あに)は除染の後の土に蒔くとふ
(福島市)美原棟子 16/3/28
*福島の美しき里茫々と無人の家にいのしし住みつく
(国立市)半杭螢子
16/5/9
*緑濃きわが故郷の夏空を線量計測のドローンが飛ぶ
(名取市)志賀令明
16/8/15
*原発に追われし楢葉五年経て雨に灯れる街灯一つ
(宮城県)須郷 柏
16/9/19
*これよりは線量高き町ゆえに車窓閉めよと警告さるる
(いわき市)馬目弘平17/1/23
*「みちのくの真野の茅原」線量計立ちて春めく光浴びおり
(三鷹市)増田テルヨ 17/3/20
*暗闇の大熊町に光れるは東電寮のみ 六年を経て
(長岡京市)田原トモ子
17/4/3
*きらきらと雪どけ水の流れ来て行く先はあの原発の海
(福島市)加藤哲章17/4/24
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