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2018年7月29日 (日)

五味川純平著『人間の條件』を読む

 昨年春から始めた旧「満洲」に関する読書の一環として、五味川純平著『人間の條件』を読みました。この小説を原作とした小林正樹監督の映画『人間の條件』は、学生時代に京都の映画館で観ました。朝10時頃に始まり、途中2度の食事休憩をはさんで、夜の9時頃に見終ったことを、記憶しています。ウィキペディアによると、映画『人間の條件』は3部構成で、総上映時間9時間31分とあり、私の記憶を裏付けました。映画は終始、暗く陰鬱で、仲代達矢演じる主人公・梶の出口のない苦闘には、ストーリーの面白さ()に魅かれながらも、目を背けたくなるような、そんな印象の映画でした。その『人間の條件』を、ほぼ50年ぶりに五味川純平の原作で、読んでみることにしたのです。

 このブログ記事では、小説『人間の條件』の2か所のシーンについて記します。それは、前回のブログ記事で紹介した浜田知明の連作版画『初年兵哀歌』の『風景』(1952年)と『歩哨』(1954年)の二つの作品に対応したシーンです。浜田知明追悼記事を書いた直後、小説『人間の條件』のなかに版画『初年兵哀歌』そのままのシーンを発見し、赤い糸で結ばれたような偶然の一致に、驚きと感慨深さを味わいました。

 

 浜田知明作『初年兵哀歌(風景)』(1952年)。衣を剥ぎ取られ、恥部を天に晒け出して転がされていた女。前回記事で、この作品が浜田の中国・中原での実体験に基づき制作されたことを、述べました。そして『人間の條件』での記述。それは、植民地・満州の鉄鉱石鉱山に、「特殊工人」として強制連行された中国人捕虜のリーダー王享立が、日本人労務責任者・梶に宛てた手記のなかに書かれていました。

 

………部隊長ハ、逃ゲ帰ッタ部下ノ報告ヲ聞イテ、決断ヲ下シマシタ。光輝アル日本軍兵士ガ「チャンコロ」ニ捕ラエラレルトハ何事デアルカ! 東洋ノ召使ガ東洋ノ主人ニ反抗スルトハ何事デアルカ! ヨロシク順逆ノ道ヲ明ラカニスベキデアルトイウノデス。命令一下武装部隊ハ村ヲ包囲シ乱入シ、手向カウ男ヲ片端カラ殺シマシタシ、女トイウ女ヲ片端カラ強姦シマシタ。一ツノ例外モアリマセン。事件ノ原因トナッタ美シイ娘ハ、数名ノ兵士ニ輪姦サレ、乳房ヲ抉リ取ラレ、陰部ニ銃剣ヲ差シコマレテ即死シマシタ。娘ノ恋人ハ、娘ガ輪姦サレルノヲ見セラレタ上デ、彼ガ捕エタ兵士ニヨッテ、銃ノ台尻デ頭ヲ粉砕サレテ、コレモ即死シマシタ。………(五味川純平著作集第一巻『人間の條件(1)p.263

 

………ソコへ、窓カラ、白イ物体ガ投ゲ出サレマシタ。全裸ニサレタ女ノ体デス。窓カラ、投ゲ出シタ兵士タチガ、校庭ニイル兵士タチニ何カ云ッテ、大声デ笑イマシタ。校庭ノ兵士タチハ、裸体ノママ倒レテイル女ノ周リニ集ッテ、ワイワイ騒ギナガラ、ドウスレバコレ以上面白クナルダロウカト考エタヨウデス。兵士タチノ中ニ、美的感覚ノ発達シタ人ガイマシタ。彼ハ窓ノ下ニソノ女教師ガ子供達ト一緒ニ作ッタ小サナ円形ノ花園カラ草花ヲ一掴ミムシリ取ッテ、女ノ局部ニ詰メ込ミマシタ。兵士達ハドット笑イマシタ。……息ノ絶エ絶エナ女ハ、ソノ屈辱ト苦痛カラ逃レヨウトスルカノヨウニ、脚ヲ二、三度鋏ノヨウニ開イタリ閉ジタリシマシタ。兵士達ハマスマス面白ガッテ笑イマシタ。……教室ノ中ニハ、女教師ノ危難ヲ身ヲ以テ庇オウトシタ子供達ガ、切リ殺サレ、突キ刺サレテ、床ヲドス黒イ血デ染メテイマシタ。兵士タチガマタ異様ナ笑イ声ヲ立テマシタ。今度ハ、詰メ込マレテイタ草花ハ脚ノ間ニ落チテ、ソノ代ワリニ棒切ガ突キ込マレテイマシタ。………(五味川純平著作集第一巻『人間の條件(1)p.264

 

 旧満州でうまれた五味川純平(19161995年)は、東京外国語学校卒業後満州鞍山の昭和製鋼所に入社、1943年召集を受け、満州東部国境地帯を転々としました。19458月のソ連軍の満州侵攻時には、所属部隊は赤軍の攻撃を受けて全滅状態となり、生存者は五味川ら数名だった、という(ウィキペディアから)。五味川純平の「満州」体験が、『人間の條件』の主人公・梶の姿に重なります。中国人捕虜・王享立の手記の形で表現された、関東軍の中国人女性に対する残虐な加害行為は、五味川純平が見聞した事件を詳述したものだと思います。版画家・浜田知明の中原の地での体験と小説家・五味川純平の満州での体験が、「恥部を天に晒け出して転がされていた女」として、また「恥部ニ銃剣ヤ棒切ガ突キ込マレタ女」として版画となり小説となって表現されたのです。Photo            浜田知明作『初年兵哀歌(風景)』(1952年)

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