「時代の行列に参加するな」
『世界』12月号の辛淑玉さんの報告『「ニュース女子」事件とは何だったのか』の文中に、木下順二の生前最後の作品『巨匠』に触れている箇所があり、興味深く思って木下順二著『巨匠』(福武書店 1991年刊行)を読んだ。本書は、『巨匠』の脚本と劇評対談などから構成されているが、その対談の中に、痛烈なメッセージとなって迫ってくる言葉があった。語る人は、木下と語り合う尾崎宏次(演劇評論家)。
尾崎「林達夫さんの言葉をひこう。林さんの言い方によれば、「時代の行列に参加するな」ということです。時代の行列に参加する中からは哲学も文学も生まれないということです。時代の行列というのはなにもナチの行列や日本の軍国主義の行列だけではない。今も行列がある。誰も指揮者がいないようだけど、いるんだよ。」
木下「個人としての指揮者じゃなくて、一種の趨勢をつくり出して行く力みたいなもんだろう。これはこわいものなんだ。戦争中のあの雰囲気だってそうだったんだからね。」
国会中継でテレビに映る閣僚はもとより自民党議員のほとんどと、一部の野党議員が胸にブルーリボン・バッジを付けていた。この徽章はまさに、安倍政権からつづく北朝鮮叩きという「時代の行列」に参加する人びとのシンボルである。また、中国叩きの人びともまた、2021年コロナ禍での大きな「時代の行列」となって意気揚々と行進している。私たちは今、林達夫の「時代の行列に参加するな」という言葉を、しっかりと胸中に刻みつづけなければならない。
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