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2022年8月19日 (金)

富岡『世界』を読む会・8月例会の報告

 富岡『世界』を読む会の8月例会は、8月17日吉井町西部コミュニティセンターで開催されたので、報告します。
 今回は『世界』8月号から、①寺島実郎『近代史におけるロシアと日本の相関―ウクライナ危機とロシアの本質』と、➁対談・重延浩×テッド若山『マスメディアがニューメディアに脱皮する—アメリカのテレビ界で何が起きているか』の2本をテーマに話し合いました。

 

 1.寺島実郎『近代史におけるロシアと日本の相関―ウクライナ危機とロシアの本質(その3)』
 この論文は6~8月号の連載記事で、3回分を一括して「読む会」テーマとした。
 寺島氏の世界史を俯瞰する視点は、一見大風呂敷をひろげたようだが、他者にないユニークさがあり、新鮮かつ刺激的な論説だ、との感想が出された。
 プーチンのウクライナ侵攻の背景には、「ロシア正教という要素」があるとの主張はその一つ。プーチンはロシア正教により国民を統合し、そのロシア正教がまさに「力への同調性」(犠牲の美化)と「霊性と神秘性への志向」(受難の礼賛)を重視してロシア愛国主義のエネルギー源になっている、と喝破している。そして、プーチンのロシアが、国家神道を国民統合の価値基準とした1930年代の日本との近似している、と指摘している。
 寺島氏のもうひとつのユニークな視点は、プーチン的世界観として反共主義・反西欧主義の底流にある反ユダヤ主義の指摘だ。ゼレンスキーが、ユダヤ人ネットワークを利用して、欧米からの膨大な支援を取り付けている、との指摘の対比が興味深い。
 80年代はじめソ連を旅行したHさんは、ソ連社会における特権階級の存在を肌身に感じた経験を話し、ソ連が共産主義を支配の道具としたように、プーチンのロシアはロシア正教による愛国主義を支配の道具にしている、と指摘した。
 寺島論文最後の、日露が「ともに、西欧にあこがれ、影響され、西欧化を試みるが、結局、西欧の正式メンバーになれず、西欧との関係が思うに任せぬ状況になると、逆上して民族主義に回帰する局面を迎えかねない」との指摘に、参加者一同、大きく頷いた。寺島論文を読みながら、「対米従属+NATO重視」を、中・韓・アセアン諸国との友好関係よりも上位に置く外交・安全保障政策の危うさを、強く感じた。

 2.対談・重延浩×テッド若山『マスメディアがニューメディアに脱皮する』
 急激に変化するアメリカのテレビ界についての報告。それは、視聴者が受動的な立場から能動的な立場へ変わることに現れる。見たいコンテンツを見たい時に大画面ディスプレイで楽しむ。すでに、ネットフリックスやアマゾンプライムのSVOD(定額動画配信)を体験している参加者もいて、ニューメディアへの評価は概して、ポジティブだった。ただ、潤沢・豊富なコンテンツ群は圧倒的で視聴者を夢中とさせ、現代の「時間泥棒」になる危険性が指摘された。
 対談ではエンターテイメントのコンテンツが主に扱われていて、ニュースについてはどうなのかを知りたい、との要望が上がった。「フェイク(虚構)も情報として生きていけるフィールドを見つけた」という指摘に、ショックを受けたという感想もあった。また、現在ある放送の「公共性」は、ニューメディアではどのように確保されるのか、対談では語られていないが、大変気になる点だ。 
 対談最後の、聞きたいニュースだけを聞き、聞きたくないニュースに耳を閉ざすことが可能になっている、との指摘に対談者同様に、怖さを感じた。国民世論の分断が一層激しくなり、オポチュニズムが蔓延り、民主主義の危機につながるのではないか。しかし、私たち中・高齢者も、ニューメディアへの参加をためらうことなく、こうした懸念と批判的視点を堅持しつつ、今後の展開を見極めていくべきだ、と思う。

 

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