富岡『世界』を読む会・11月例会の報告
富岡『世界』を読む会・11月例会は、11月21日(木)14.00-16.00時、高崎市吉井町西部コミュニティセンターにて、5人の参加で開催された。テーマは、1.特集1アメリカという難問から①三牧聖子『ガザが問う、カマラ・ハリスの真価』、②井上弘貴『「右派進歩主義」の台頭』、③兼子歩『アメリカン・ストロングマン』の3稿と、2.袴田事件関連の①藤原聡『再審無罪「袴田事件」の58年』、②ディビッド・T・ジョンソン『冤罪は、ただ一つの誤りの結果ではない』の2稿だった。
Ⅰ.特集1.アメリカという難問
大統領選挙前に書かれた論稿だったが、トランプ勝利に終わったアメリカ社会を鋭く分析していて、「なぜトランプか」の疑問に答えるものだった。
三牧聖子は、カマラ・ハリスが「ガザでの人道危機を終わらせなければならない」という一方で、バイデン・ハリス政権が、パレスティナ市民虐殺を支えている武器をイスラエルに送り続けている欺瞞性を指摘する。パレスティナ支持を鮮明にする若者や民主党左派の人々が、ハリスから離れていったと推測する。
井上弘貴は、「ハイチ移民が猫を食べている」というトランプ発言が、アメリカだけではなく世界中に広がり、「悪名は無名に勝る」としてマスメディアの注目を集め、トランプは得るものがあった、と述べる。トランプの発するSNSに、ライフルで武装した猫たちの生成AI画像が登場し、「ハイチ移民の猫」暴言を徹底的に選挙戦に利用しょうとするトランプ陣営のしたたかさを痛感した、との感想が出された。そこには正義も良識もなく、ただただ移民排斥の強烈な意志を読み取るばかりだ。
トランプ勝利後のTV映像には、トランプに寄り添うイーロン・マスクの姿が目立つ。マスクは最先端のテクノロジーの担い手であり、科学・技術進歩の信奉者であるはずだ。およそ非科学的な言動を止めないトランプとは対極の位置にあると思いきや、熱烈なトランプ支持者として登場し、トランプ勝利の立役者の一人となった。井上は、こうしたマスク等の動向を、右派進歩主義として括り、彼らが今後、共和党を根本的に変えていく可能性を示唆している。
トランプを理解するためには、アメリカの歴史を知らなければならない。兼子歩は、トランプがカウボーイ的「男らしさ」とストロングマン的権威主義者の系譜の交差が生んだ指導者だと看破している。
トランプ勝利後のアメリカ論議は、重苦しくいやな感じを払しょくできなかった。
Ⅱ.袴田冤罪事件
藤原聡は、袴田冤罪事件にかかわった警察官や裁判官にフォーカスし、実名を挙げて彼らの役割と責任を追及している。この冤罪の出発点は、静岡県警のベテラン刑事たちによる自白の強要と証拠品の捏造だ。彼らは袴田事件とは別に4件の冤罪事件を引き起こしている。当事者である警察官、切羽平一と紅林麻雄の名前は、冤罪の歴史に名を留めるべきだ。
そして更に罪深いのは、袴田さんに死刑判決を下した裁判官たちだ。一審の静岡地裁は、裁判官の2対1の合議で死刑判決を出した。無罪心証のまま死刑判決文を書いた熊本典道は、生涯苦悩しつづける。東京高裁の横川敏雄裁判長は、証拠評価を見誤って控訴棄却し、死刑判決を維持した。のちに彼は、有罪を無罪にした誤判はあったがその逆はなかった、と語った。最高裁上席調査官・渡部保夫は、警察による証拠品捏造なんてありえないとして、上告棄却の判決文草案を書いた。のちに北大教授となった渡部は、誤判防止に積極的に発言し、「無罪にすべき被告人は無罪に」と著書に記した。これら裁判官たちの罪も重く、やはり冤罪の歴史に名を留めるべきだ。
参加者からは、冤罪事件はただ被告人に過酷な人生を強要するばかりでなく、真犯人の追及をスポイルしたことにあると指摘された。被害者家族の気持ちに寄り添うことの重要性も、同時に語られるべきだ。
ドイツ社会が追及するホロコーストの記憶は、被害者と加害者の実名を伴っている。袴田冤罪事件の首謀者を実名で記録したことは、評価されるべきだとの意見が出された。
冤罪事件に関連して、富岡市議会が国民救援会による「国に対し『再審規定の改正』を求める意見書提出の請願」を採択したことが、報告された。小さな地方都市での、冤罪防止に向けた小さな、しかし貴重な一歩だ。
Ⅲ.12月例会の予定
1.日程・場所:12月19日(木)14.00-16.00時、吉井町西部コミュニティセンター
2.テーマ
a.特集1 見えない中国から メイン①𠮷岡桂子『日本人学校男児殺害事件-日中関係の転機か』、サブ②梶谷懐『中国経済は日本化するのか』、③斎藤淳子『圧縮型発展の曲がり角で』、③毛利亜樹『日中「平和・協力・友好の海」のゆくえ』。
b.税と財政関連 ①諸富徹×広井良典・対談『これからの時代の税の考え方』、②片山善博『歳出と歳入のバランスを考える国柄に』。
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