2017年6月20日 (火)

安部公房の描いた「満州」―『けものたちは故郷をめざす』(1957)を読む―

 この春以来、朴裕河著『引揚げ文学論序説』(人文書院2016刊)に啓発され、彼女のいう「引揚げ文学」を読んできました。後藤明生、小林勝、なかにし礼、そして木山捷平の諸作品です。4人の作家たちはいずれも戦後の引揚げ者ですが、後藤、小林、なかにしの三人が、植民地であった朝鮮や「満州」で生まれ育ったのに対し、木山捷平は戦争末期、40歳で単身「満州」に渡った、という違いがあります。しかし、何れの作品も、著者たちの体験を色濃く残した自伝的なものでした。今回読んだ安部公房著『けものたちは故郷をめざす』(1957/4刊)は、私小説とは違ったフィクション性の強い作品ですが、著者の幼少年期の「満州」での体験に裏打ちされ、敗戦後の元・植民者が難民化する中で、故郷として思いつづけた日本そのものを喪失する物語です。

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2017年6月 9日 (金)

木山捷平の「満洲」その2― 『満洲五馬路』『苦いお茶』を読む -

木山捷平の『大陸の細道』は、著者の「満洲」渡航から敗戦までの体験を、主人公・木川正介に託して描いた私小説でしたが、敗戦後の難民生活については、『満洲五馬路』(68/10)や『苦いお茶』(63/5)に描かれています。このふたつの作品から、木山捷平の『満洲』における難民体験を、追想します。これらの作品でも、主人公はやはり、木川正介。

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2017年6月 7日 (水)

木山捷平の「満洲」―『大陸の細道』を読む ―

  岡山県出身の詩人・作家の木山捷平(19041968)は、1944年の暮れ、新境地を開拓すべく「満洲」に渡ります。満洲農地開発公社嘱託として首都「新京市」(長春市)に赴任した木山は、気ままで自由な立場を享受していましたが、戦争末期になって現地召集をうけ兵役に就きます。そして敗戦後、1年ほど難民生活をつづけ、47年に引揚げてきました。

今回は、木山捷平の小説に描かれた「満洲」での終戦前後の個人的体験を追いかけ、歴史書には書かれなかった「満洲」の史実に接近したい。小説ではいずれも、主人公は「木川正介」として登場し、これらの作品が、木山捷平の自伝であることを明らかにしています。

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2017年5月17日 (水)

゜恋のハレルヤ゜が蘇る ― なかにし礼著『夜の歌』を読む

  安倍首相が「9条に自衛隊を明記し、2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と改憲派集会にビデオメッセージを寄せた日の翌日、作家・作詞家のなかにし礼さんは朝日新聞紙上で、「首相は憲法を尊重し擁護する義務を負っているのに、改正の期限を切るなどというのは大問題」だと批判しました。なかにしさんは、「戦争をしないことをうたう日本国憲法は世界一です。特に前文は人類の進化の到達点だといってもいい。世界に誇れる芸術作品」だと語りました(朝日新聞5/4)。この記事の中で、昨年発表された小説『夜の歌』のことが取り上げられ、これこそ最新の「引揚げ文学」だと思い、早速読んでみました。

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2017年5月 3日 (水)

植民地朝鮮を書きつづけた作家・小林勝を読む

 朴裕河著『引揚げ文学論序説―新たなポストコロニアルへ―』で取りあげられた小林勝の作品を、読みました。朴氏は、小林勝という作家について、「植民地とされた朝鮮で生まれて、43年というあまりにも短い生涯を「朝鮮」とそれをめぐる心象風景を描くことに捧げた作家であった」と紹介します。今、この作家について論じることは出来ませんが、彼の作品で表現された植民地・朝鮮についての記憶を、いくつかメモしておきたい。

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2017年4月 6日 (木)

後藤明生著『夢かたり』を読む

 先に読んだ朴裕河著『引揚げ文学論序説』(人文書院2016刊)において、植民地や占領地における帝国支配の「記憶の風化が進んでいる今日こそ、改めて読み直されるに値する」と高く評価された後藤明生の小説『夢かたり』(中央公論社1976刊)を、市立図書館から借り読みました。

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2017年1月10日 (火)

夏目漱石著『明暗』と水村美苗著『続 明暗』を読む

 漱石没後100年(1916年12月9日没)の年末から生誕150年(1867年2月7日)の年初にかけ、漱石未完の絶筆『明暗』と、その未完の書が書き継がれた水村美苗著『続 明暗』を読みました。

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2016年12月 2日 (金)

大河小説の醍醐味を味わう―津島佑子著『火の山―山猿記』

 Tさんへ
 その後、如何お過ごしでしょうか。
 秋の寄合いの時、長年介護なさってきたお姉さんが亡くられたことや、地元では由緒ある旧家であったTさんの実家について、話されました。富士山をまぢかに仰ぎ見るTさんの実家は、貴兄の子ども時代は、両親と10人の子どもからなる大家族だった、ということでした。長兄と末っ子の貴兄との年齢差は、20歳以上離れていた。その長兄が、医者となってT家を継ぎ、現在、その息子がやはり医者として、T家の跡取りとなっている。貴兄たちが生まれ育った家は、旧家にふさわしい歴史ある大きな木造住宅でしたが、あちこちの痛み激しく、ついに取り壊すことになったと、懐古と惜別の情深く話されました。
 津島佑子著『火の山―山猿記』を読んでいて、小説の主人公たちの有森家とT家とが、駿河と甲州の違いはあるとしても、「地方の旧家、大家族、富士山」という3つのキーワードで結ばれていることを発見し、これは貴兄に知らせなくては、と思った次第。

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2016年11月 8日 (火)

重度障害者殺傷事件と津島佑子著『狩りの時代』

  19人もの死者をだした相模原市の重度障害者殺傷事件は、世界各地でつづくテロによる多数殺人事件を連想させ、日本国内だけでなく世界を震撼させました。また、各メディアの報じた「重度障害者は生きていても意味がないので、安楽死にすればいい」「障害者は不幸を作ることしかできません」「世界経済の活性化のため」といった容疑者の言葉は、ナチス・ドイツが優生思想により、ユダヤ人虐殺に先立ち、知的障害者や精神障害者など約20万人を抹殺したことを、思い起こさせます。事件直後、全盲と全ろうの重複障害を持つ福島智・東大教授は、事件の背景として、「労働力の担い手としての経済的価値や能力で人間を序列化」する現在の世界を覆う新自由主義的な人間観にあるとし、「そこでは、重度の障害者の生存は軽視され、究極的には否定されてしまいかねない」と指摘しました(毎日新聞7/28)。

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2016年10月13日 (木)

津島佑子著『ジャッカ・ドフニ 海の記憶の物語』を読む

 Aさんへの手紙

  元気にお過ごしですか。
 津島佑子著『ジャッカ・ドフニ 海の記憶の物語』を読み終えたとき、もし貴君がまだ、この本を読んでないとしたら、是非、読むことをすすめたいと思いました。

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